モネです、今日もXMT_from_TYO !! です。 今日は朝から快晴。心地よい風が吹きとても過ごし易く、お出かけ日和ではあるけど、世の中コロナ禍。あんまり浮かれているのもどうかと思ってしまうと、ちょっと消極的になっちゃう。
ラビリンス・スリラー「ビバリウム」鑑賞
今日のブログは映画についてなんだけど、観たのは数種間前。書こうと思いつつラスト結末まで書くか悩みに悩んでいたので、そのまま放置してしまった。結局結末については触れずにネタバレなしで書くことに決定。
今回は珍しく渋谷で映画鑑賞。場所は渋谷のシネクイント。こちらは同一エリア内に2カ所、今回行ったロフトの隣にあるビルの7階、スクリーン1前から3列目の真ん中。あまり見上げる感じじゃなければ、いつも一番前に座るが、初めてだったので状況がよくわからないため、とりあえず3列目を指定。個人的には2列目でも大丈夫そうな気がした。
それでは本題、そこで何を観たのかというと、一度入ると抜け出せない新興住宅街が舞台のラビリンス・スリラー「ビバリウム」。
「ビバリウム」予告映像
制作年:2019年
制作国:ベルギー
デンマーク
アイルランド合作
時 間:98分
原 題:Vivarium
配 給:パルコ
あらすじ
巣から落ちて死んだ雛を埋葬する二人
冒頭、孵化したばかりにもかかわらず、大きな雛が巣の中でうごめくシーンから始まる。物語が始まり、場面は小学校。主人公ジェマは先生らしく生徒に話しかける。樹木の巣から地面に落ちて死んだ雛を可哀想に思う少女に“自然の摂理なの”となだめるジェマ。そこに、巣のあった樹木の剪定をしていたジェマのパートナーであるトムが登場。そして、二人は巣から落ちた雛を穴を掘り埋葬する。
内見中に姿を消した怪しげな不動産屋マーチン
場面は変わり、快適な新生活を思い描き?!自分たちに合った新居を探す二人。そこで立ち寄った1軒の不動産屋。店の奥の机に座る営業担当マーチンは、見るからに怪しげな感じがする。二人は怪訝な表情をするものの、マーチンに後押しされて、とりあえず内見することとなる。そこで向かった先は巨大な新興住宅街「Yonder」。
エメラルドグリーンの可愛い感じの家ではあるが、入居前?だからか人気はない。同一区画、同一デザイン、同一カラーの建物がどこまでも並んでいる。この何も無い住宅街は無機質で、むしろ不気味さすら感じられた。マーチンが案内したのは建物“9”。建物に入りマーチンによる案内があったが、途中二人がふと気がつくと営業担当マーチンの姿が見当たらないことに気づく。外へ出てみると家の前に止めてあったはずのマーチンが乗っていた車もそこにはなかった。
抜け出せない建物“9” 子育てを強制される二人
二人は、早々に建物“9”を後に車へ乗り込み帰宅しようとするが、同じ建物が並ぶ街のためか、何度も道に迷ってしまう。何度車を走らせても、内見した建物“9”に戻ってしまう。ついに燃料がなくなり、帰宅することを諦めた二人は、この建物“9”で一夜を過ごすことにする。
翌日、トムは梯子を屋根にかけ登ってみたところ、見渡す限りどこまでも続く同じ家並みを見て驚愕する。その夜、玄関前には段ボールの箱が置いてあることに気づく。開けると生活用品や食料などが入っていた。
抜け出せない怒りや不安からか、トムは段ボール箱を破り火をつけ家を燃やす。路面に座りこみ、ただただぼんやりと燃える家を眺める二人。疲れからかうとうとし、眼が覚めると、燃えたはずの家がそこに建っている。そして、また玄関前に新たな段ボール箱が。今度は開けてみると赤ん坊がいた。そこには「この子を育てれば解放される」というメッセージが印刷されていた。
二人が育てた「子供」は、98日間で小学生くらいに急成長した。二人は「子供」の世話をする奇妙な同居生活を始めていた。そんあある日、トムは玄関脇の地中に何かがあると感じ、日々穴を掘っていくのだが。。
「子供」の正体は?マーチンの目的は?
突然、軟禁され、なかば強制的に得体の知れぬ不気味な「子供」を育てさせられた二人。これって、人生の疑似体験? 子供を育てる訓練? ラビリンス・スリラーなんて言ってるくらいだからそれはないか。
「子供」の見た目は、不動産屋のマーチンと同じ髪型、服装だったから、不動産屋自身を育て直して欲しかったみたいな話なのかなと思ったりもした。両親がいなくて苦労したとか、両親の愛情をほしかったとか。だからこの二人に改めて幼少から託してみようとかって話では全くなかった。
キーワードは“托卵(たくらん)”
冒頭の大きな雛が蠢くシーンは、この物語のコアなポイントとなるカッコウの習性「托卵(たくらん)」に関する映像だった。カッコウは自分自身で子育てをしない。他の鳥の巣にある卵を取り去り自分の卵を置いていき巣の持ち主に羽化させる。これを托卵というらしい。
カッコウは巣の主の雛とともに誕生した際には、なんと他の雛を巣から落とし餌を独占するという特性があるらしい。つまり冒頭の巣から落ちた雛は落とされたのだろう。ということは、カッコウに落とされた雛を救えなかったための代償? だとしたら落としたことにつながる何かがエピソードとして出てくるだろうね。悲しんだ子供がよく思わなかったから、その怨念でって話でもない。まぁ、そんなことで恨まれるようなこともないしね。
このことが話の手がかりとかヒントだとすると、カッコウは自身で雛を育てないという習性があること。そうやって考えると、二人は急成長した「子供」を托卵され寄生されたということを示唆しているのだろう。
一般人の生活を皮肉った作品
突然、穴を掘り始めたトムなんだけど、なんで穴を掘り出したのか。人って追い詰められた時に考えることって、現実的ではなかったり突飛な行動に出たりする。とり憑かれたように穴掘りに明け暮れたのは、なんでもいいから取り組むことが欲しかったのかな。気を紛らわすことや何かにすがりたかったのかも。
この穴掘りは人が生きるということは死に向かっていることを表現しているのだろうな。ブッダは“なぜ死ぬのか?”という問いに対し“生まれたから死ぬのだ”と答えたとか聞いたことがあるが、生と死は一直線につながっているからね。そういう意味では、穴掘りに没頭する姿は、人の一生を描いているのかもしれないね。穴を掘り、掘りきったところで人として役目を終えるみたいな。だとすると、二人の経験は苦行なのかね。住宅を手に入れ維持すること、子供を育てることなどの苦労、それによる夫婦喧嘩とか、根拠なくきっと未来があるとか、一般人が直面する人生を揶揄しているのかもね。
ネタバレなしの結び
暖かい家庭のためのマイホームが“悪夢”へ誘う
そもそもなんで建物“9”に戻るのか、子供が赤ん坊が98日で小学生くらいになっちゃうとか考えなくもないが、そんなこと突っ込む前に物語に引き込まれちゃったから気にも留めなかった。じわじわと迫る恐怖が襲う。この理不尽な恐怖は、なんだか勅使河原 宏 監督の『砂の女』を思い起こさせる。
作り物とでもいうかCGで描かれたようなエメラルドグリーンの家が延々に立ち並ぶ様は家の可愛らしいフォルムと相反し、ぞっとさせられる。さらに、マグリットのような均一な雲、住人はおろか、犬や猫、スズメにカラスとか普段生活に当たり前に存在するものが全く存在せず、音がなく人工的でとっても不気味。
精神が病んでいく二人の姿は、マイホームを手にいれる代償として理性の喪失でも表しているのだろうか。生活用品も食料も子供までも箱詰めされて届けられる。何者かに生かされている様は水槽にでも放り込まれ飼われている感じ。住宅街もパッケージ商品みたいな画一的なものだし、人や動物はいないからコミュニケーションなんて存在しないし。家族のための暖かいはずのマイホームが悪夢へと二人を引きずり込んでいく。
なんのために人は生きるのかを問われている
こんな人の一生を観てしまうと、いったい人にとっての幸せってなんなんだろうなと思ってしまう。マイホームを持つことを目標としている人は多いいのだが、家があることで縛られ、自分らしさを殺し生きることで、だんだんと自分を失う。気がつくことなく、自分と向き合う時間を失うことなのだろう。
自分自身思ったように生活できなくなっていく。裕福ならともかく、一般人がマイホームを手にいれるまで、入手後の生活は、もはや自分のためではなく、住宅ローンを払い、子供が独り立ちするための人生となり、自分の人生を生きることではなくなってしまう。
与えられた価値に振り回される人を風刺した作品
これって世の中の人たちが抱く価値に振り回され、それを鵜呑みにして自分の姿がわからなくなっちゃうということを表現した映画なのだろうな。なにも自分の周りだけが世界の全てではないはずなんだけど、目にする、手に取れるものが全てとなってしまう人が多いのだろうね。別に会社勤めやマイホームが悪いわけではないけど、本当の自分を見つける前に周辺の人に言われた通り生きるような人間になってしまうのだろう。そういった意味では、この映画を見終えると虚しさだけが残る。
とはいえ、嫌な気分にさせられながらも、食い入るように観てしまった。この「ビバリウム」は価値を植え付けられた人間を風刺した作品だと思う。後味はいいとはいえないし、嫌な気持ちにはなるかもしれないけど、少しでも興味を持った方は、ぜひ観てください。ちなみにこちらも読んでください。《グロくない!モネなりに後味の悪い映画をチョイスしてみた!》ということで、モネの“「ビバリウム」映画レビュー あらすじとかなり私的感想” fm_TYO_w_luv !! でした。
監 督:ロルカン・フィネガン
製 作:ジョン・マクドネル
ブレンダン・マッカーシー
出演者:イモージェン・プーツ
ジェシー・アイゼンバーグ
ジョナサン・アリス